済生会総研News Vol.11
政府は、4月6日、今国会の最重要法案に位置付けている働き方改革関連法案を国会に提出したが、今後審議が行われる。
政府は、当初2月中の提案を目指していたが、裁量労働制の対象業務拡大の検討の基礎になったデータの信頼性に疑問が持たれたこと、東京労働局長の記者会見での発言が物議を醸しだしたことなどで1月以上遅れた。さらに現在国会情勢が混乱しており、今国会での成立の行方は、本稿執筆時(4月20日)では不透明である。
しかし、この働き方改革関連法案は、戦後日本の民主化推進の柱として制定された労働基準法など労働法体系を抜本的に改め、今後の日本の経済、社会、国民生活を大きく変革していく。医療や福祉分野も例外でない。医療、福祉事業に従事する者は、法案の内容を十分に理解しなければならない。
例えば残業時間の上限規制である。原則月45時間、年360時間までとされ、罰則が付せられる。ただし医師の適用は、5年間猶予されるが、医療現場や人手不足の現状などをかんがみると、特別の取り組みが迫られる。また、同一労働同一賃金の義務化は、非正規雇用が多い職場での対応が求められる。
四病院団体協議会は、医師の働き方について検討を行い、「現行の労働法制とは異なる独自の医師労働法制を制定する」などの要望書をまとめ、先ごろ厚生労働省に提出している。
メディアでの報道は少ないが、雇用対策法の改正に盛り込まれた女性の就労促進、保育や介護施策の充実、患者の就労援助など今日ニーズが高まっている分野の政策の促進も注目しなければならない。
ところで今回の働き方改革関連法案は、次に掲げるような背景があるという巨視的な歴史的コンテクストで考察しなければならない。
第1に、超高齢社会の本格化、生産年齢人口の減少である。これを対処するためには高齢者、障害者等多様な人の就労促進が求められる。
第2に、グローバル化の進展により国際競争の激化である。日本の労働生産性は、欧米諸国に比べて著しく低い。生産性の低い産業分野が残されている。
第3に、国民の人生観、職業観の変化とそれに伴う働き方の変化である。男性が終身雇用で会社に働き、女性が家庭で専業主婦という戦後からの日本の典型的な家族形態は、崩壊した。女性の社会進出が一般化し、労働移動、自由な勤務形態が増加している。
いずれにしろ働き方改革は、多様性を有するすべての人が生きがいを感じて働くことができる社会の実現に寄与しなければならない。
研究部門
平成30年度診療報酬改定・DPCの影響について(包括点数・機能評価係数Ⅱ等)
平成30年度の診療報酬改定は、6年に1度の診療報酬・介護報酬の同時改定となりました。団塊の世代が75歳を超え、国民の5分の1が75歳以上となる2025年問題に向けて大きな節目となる改定です。
厚生労働省の公表では、全体▲1.19%で内訳として診療報酬本体 +0.55%(医科 +0.63%・歯科 +0.69%・ 調剤 +0.19%)、薬価 ▲1.65%(実勢価等改定 ▲1.36%・薬価制度の抜本改革 ▲0.29%)、材料価格 ▲0.09%となっています。
すでに診療報酬改定による影響率を算出している病院もあるかと思いますが、今回は、済生会の経営情報システムのデータから、済生会病院のDPC請求の改定による影響を調査いたしましたので、その結果を報告します。
1. DPC包括点数(入院日数を含めての試算)(図①DPC包括置換)
DPC包括点数を置換して改定率を算出しました。調査対象病院は、平成28年度DPC病院54病院で、平成29年4月~10月までの期間の退院患者(6カ月間)約14万件のデータを置換対象としました。詳細な条件は次の通りです。
・DPC請求の適応患者
・入院年月日が平成28年4月1日以降の患者
・再入院患者は除外
・改定前、改定後の入院期間Ⅲの日数の差が生じていない診断群分類の患者
・改定前の入院期間Ⅲを超えた患者は、除外
・再入院で診断群分類を継続した患者は、除外
置換計算の結果は、済生会病院の包括部分の置換で点数合計比、▲0.57%でした。
プラスとなった病院は5病院、マイナスになった病院は49病院で、大半の病院が下がっています。DPCの包括点数内の薬剤・材料の引き下げが影響の原因になっているものと考えられます。
2. 基礎係数・機能評価係数II (図②基礎係数・機能評価係数II)
今回の改定により、暫定調整係数は廃止され、機能評価係数IIは、評価項目が8項目から6項目になり、基礎係数の点数変更がありました。
改定前の暫定調整係数・機能評価係数II・基礎係数の合計と、改定後の機能評価係数II・基礎係数の合計の平均の比較をしました。
その結果、係数が+0.0103でした。
プラスとなった病院は47病院、マイナスになった病院は7病院でした。
3. DPC包括点数と基礎係数・機能評価係数を組み合わせての試算
病院ごとにDPC包括点数影響と基礎係数・暫定調整係数・機能評価係数IIを組み合わせて診療報酬改定の影響率を試算しました。影響率の算出の計算式は次の通りです。
(改定後包括点数【置換計算】×改定後係数(機能評価係数II+基礎係数))
/(改定前包括点数×改定前係数(暫定調整係数+機能評価係数II+基礎係数))×100-1
その結果、診療報酬改定の影響率は+0.49%でした。
プラスとなった病院は34病院、マイナスになった病院は20病院でした。
今回の改定は、プラス改定ですが、内訳を見ると、DPCの包括点数は下がり、DPC機能評価係数II等の係数が上がっている傾向であり、全体集計では、プラス改定ではあるものの、マイナスに転じている病院もありました。なお、部分的な試算ではありますが、全体の影響率の平均は、厚生労働省が提示した改定率よりも下回った結果となりました。この結果を踏まえ、各病院における係数アップのための対応は、これまで以上に重要になるものと考えます。
人材開発部門
平成30年度の人材開発については、以下の分野ごとに各種研修等を計画しています。
医師・事務等分野
医師・事務等分野においては、以下のような各種研修等を予定しています。人事交流制度等の今後の展開については、人材開発ワ-キンググループ等の場において検討を進めていきます。
医師臨床研修
・指導医講習会ワークショップ(6/23-24 大阪梅田、9/29-30 千葉幕張)
・次世代指導者研修(11/23-25 東京)
・臨床研修管理担当者研修会(2/23 富山) 等
事務等
・医療技術者マネジメント研修(未定)
・薬剤部(科・局)長研修会(12/14-15 本部)
・次世代幹部研修(未定) 等
看護分野
看護分野では「全国済生会看護職員教育体系」に基づき今年度も各種研修を行います。
さっそく看護部長・副学校長研修(H30.4.19-20)を開催しましたので以下に報告します。
「新任16人を迎え看護部長・副学校長研修」
4月19~20日、看護部長・副学校長88人が出席し本部で開催しました。1日目は厚生労働省医政局看護課の島田陽子課長から「看護の動向」について講演いただき、看護師の特定行為研修の全国指定研修機関の説明等を受けました。
続いて、平成29年度副看護部長フォローアップ研修における受賞者の成果発表を行いました。「済生会虹の架け橋賞」(下関総合病院副看護部長・亀永百合子氏)、「チームでやり遂げたで賞」(山形済生病院副看護部長・阿部克子氏、新潟第二病院副看護部長・佐藤志津子氏)、「済生会ブランド企画賞」(野江病院副看護部長・柏井満希子氏、兵庫県病院副看護部長・堀川葉弥子氏)、「済生会虹の架け橋賞」(下関総合病院看護部長・藤田恵氏)からそれぞれ発表いただきました。
午後からは、高輪心理臨床研究所主宰の岸良範氏の講義「人間関係とリーダーシップ―豊かにはたらくために―」とグループワークが、2日目には中京大学法科大学院の稲葉一人教授から「臨床倫理の基礎 事例検討会 意思決定支援 院内で実現するために」の講演があり、大変有意義な研修となりました。
社会福祉・地域包括ケア分野
社会福祉・地域包括ケア分野においては、生活困窮者支援や総合的な医療と福祉サービスの提供を担う人材の育成に向け、以下の研修を行います。
・ 福祉施設リーダー研修(7/30-31 東京、9/4-5東京、10/16-17岡山)
・ 済生会地域包括ケア連携士養成研修(11/12-15 東京)
・ MSW研修会・生活困窮者支援研修会(3/12-13 東京)
済生会総研から
今回の総研Newsは、研究部門から診療報酬改定の試算(DPC部分)を掲載しました。
各病院においては、診療報酬改定への対応(改定点の理解、院内周知、改定前後の影響調査、施設基準の届出等)の作業が一通り終わり、改定後初の診療報酬請求を残すばかりとなっているものと思います。
改定作業で活躍していた人もあと一息で通常業務に戻れるものと思います。
周りを見渡すと若葉のまぶしい季節になりました、ぜひとも次の活躍に向けてリフレッシュしていただきたいと思います。

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