済生会総研News Vol.106
本欄で度々述べてきたようにグローバル化が進行し、労働力人口が減少している日本は、外国人労働者を受け入れなければ、経済や社会が動かなくなっている。今後この傾向は、さらに強まっていく。外国人と共生する社会づくりが急がれる所以である。
その前提条件として外国人が日本の法律、ルール、マナーを尊重することが必要であると強調してきた。これに反する外国人を目にし、嫌悪感を抱いた日本人はかなり多い。これでは共生社会づくりは覚束ない。
私は、26年前、旧厚生省保護課長の時に外国人に対する生活保護制度の誤った適用が全国的に見られ、これがデファクトとして定着し、生活保護制度の信頼が揺らぐことを恐れた。そこで誤った外国人の生活保護適用を正すように全国の自治体を指導した。
予想通り外国人支援団体から反発が起こり、訴訟が提起された。証人として法廷に立った私は、理路整然とその理由について述べた。最高裁まで争われたが、私が考えた同様な理由で私の方針が是認された。現在では判例として確定し、生活保護制度は適正に運営されていると思う。
このように外国人が日本の法律、ルール、マナーを順守するようにするためには、行政側の対応も求められる。
国は、令和7年5月から「国民の安全・安心のための不法滞在者ゼロプラン」を発表して不法滞在者対策に取り組んでいる。在留外国人数は、今や400万人を超えた。一方不法残留者数は、法務省の発表では令和7年7月1日現在、7万1,229人で減少傾向にある。
入国管理法第62条第2項では国や自治体の職員は、不法滞在外国人を知ったときは、入国管理当局や警察への通報義務を課している。これ以外の人は同条第1項に基づき「通報することができる」と定めている。この通報によって退去強制処分が適用された場合、同法第62条に基づき報奨金が支払われる仕組みになっている。
不法就労外国人が多い茨城県は、令和8年度から不法就労者の通報報奨金制度を始めると発表した。これに対して外国人差別を助長する恐れがあると批判がメディアから出ているが、どのように運営されるのか注目される。
研究部門 済生会総研 客員研究員/済生会神奈川県病院/慶應義塾大学SFC研究所上席所員 古田 裕亮
総研統計セミナー開催報告 ― データを読む力を、現場の力へ ―
データは存在するだけでは組織を変えない。それを日々の業務に活かすこと、そして論文を読み書きし研究につなげること。数値を正しく理解する力が、その両者を支えます。
近年、リアルワールドデータ(RWD)の活用が進み、医療現場でもデータドリブンな意思決定が求められています。一方で、EBMの理念のもと、医療者は日々の診療と並行して論文を読み、時に自ら研究を行うという、実践と知の創出の双方を担ってきました。しかし統計手法は年々高度化し、学習コンテンツは増えているものの、現場で体系的に学び直す時間を確保することは容易ではないのが現状です。統計学を一通り学ぶこと以上に、論文を読み、数値の意味を理解し、現場で「統計を使えること」が求められています。
こうした問題意識のもと、本年度に、済生会総研では全4日を想定したオンデマンド形式による統計セミナーを企画しました。本セミナーは統計学を網羅的に教えるものではありませんでした。
実際の論文を読み進めながら、表1や表2の読み方、信頼区間とp値の解釈、相関と因果の違い、回帰分析の考え方など、臨床研究で直ちに必要となる論点に絞っています。通勤時間などの隙間時間で視聴できる短時間動画で構成し、本質に触れられる設計としました。当初は一動画15分を目標としましたが、理解を優先した結果やや長くなった部分もあり、今後さらに精選していく予定です。
参加者からは、「検定や回帰分析の説明が分かりやすかった」「p値だけでなく信頼区間や前提に目が向くようになった」といった声が寄せられました。また、「業務や家庭の合間に視聴できるのがありがたい」「地方在住の医療者にとって、このような研修機会は貴重だ」との意見もいただきました。統計を特別な専門技術ではなく、数値を解釈し議論するための道具として捉える視点が共有されつつあることを感じています。
また、現在、日本全体でも統計教育の高度化が進められています。大学や研究機関では、統計指導者の育成を目的とした専門的な研修プログラムが展開されており、本セミナーは、そうした研修で得た教育方法論の知見を踏まえ、医療現場で実際に活用できる形へと再構成したものになります。総研としては、若手医師・医療職が研究を始められる状態を整えるとともに、データを活かす文化を組織の中に根づかせることを目指しています。
統計を理解し、問いを立て、議論できる人材が増えることは、医療の質の向上にとどまりません。学び続けたいと願う人材にとって魅力ある土壌を育て、済生会が実践と研究を両立できる場であり続けるための基盤となるために、本セミナーをその小さな一歩とし、着実に取り組みを積み重ねていきたいと考えています。本セミナーは、若手医師にとどまらず、全済生会人を対象としております。今後の開催に、ぜひご参加を頂ければと思います。
研究部門 済生会総研 研究部門
研究評価委員会
済生会総研における研究評価委員会(松谷有希雄委員長:一般財団法人日本公衆衛生協会会長)が令和8年3月9日に開催され、研究活動について評価を受けるとともに、令和8年度の研究実施計画について審議された。研究活動報告を山口直人研究部門長、原田奈津子上席研究員、植松和子上席客員研究員が行った。報告内容は以下の通りである。
報告1(山口研究部門長)
・DPCデータ等の分析による済生会の経営・運営の諸課題へのアプローチ
「済生会病院の過去10年間における入院患者の推移と今後への示唆」
報告2(原田上席研究員)
・地域での暮らしを支える医療と福祉の連携
-済生会の特徴をいかした地域包括ケアモデルの確立に向けて-
・ソーシャルインクルージョンの展開と課題
-地域の特性に応じた各地の取り組みから-
・福祉施設における看取りの現状と課題
報告3(植松上席客員研究員)
・高齢者施設での医薬品に関する支援
-済生会福祉施設会・薬剤師会連携研修会-
・病院に勤務する女性薬剤師の働き方・キャリアビジョンに関する意識調査
さらに、審議事項として、令和8年度研究実施計画について審議され、承認された。
済生会総研は、実践的な研究を目指し、保健、医療、福祉を担う済生会施設の活動の支援を目指していきます。済生会内外の施設との研究ネットワークを構築して共同研究を推進しますので、引き続き済生会総研へのご支援をよろしくお願いします。
―編集後記―
今年は3月に入ってからも東京でも雪が降るなど寒い日があり、分厚いコートを着る機会も多かった気がします。ここにきてようやく春を実感する日がきました。それが桜の開花です。いったん咲きはじめるとすぐに満開になって、そして散っていくという流れに季節が過ぎていくのを感じます。そのあとの葉っぱの新鮮な緑に初夏に向けて動き出したなと感じるまでがセットです。(Harada)
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