済生会総研News Vol.103

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済生会総研の視点・論点 済生会総研 所長 炭谷 茂
第102回 外国人問題考察の視座(6)~外国人差別発生の原因~

 外国人差別は、最近、世界各地で発生している。
 2025年のミス・ユニバース世界大会のフィンランド代表だった女性が、SNSに掲載したつり目のポーズの写真が拡散し、アジア人に対する人種差別だと批判される事件があった。フィンランド・オルポ首相が今回の事案は、「平等とインクルージョンを大切にするフィンランドの価値観を反映していない」とXで訴えるまでに発展した。
 オーストラリア・シドニーではユダヤ教を祝う祭典に反ユダヤ主義者の親子が銃を乱射し、子どもから高齢者まで15人が犠牲になった。
 いずれの国も人権問題について調査したことがあるが、ともに人権の取組みでは世界のトップクラスである。フィンランドは、D&I(ダイバシティとインクルージョン)が進む国である。特に女性の社会進出の状況には目を見張る。
 オーストラリアは、1970年代までは白豪主義による人種差別が激しい国だったが、今日では多文化共生社会を目指す。特に先住民のアポリジニィの人権向上には、植民地時代の反省にたって格別の努力を重ねている。
 しかし、このような国であっても世界を驚かせる事件が発生しているように、世界各地で外国人差別や排除が目立つ。日本でも同様である。
 この対策を考えるに当たって外国人差別や排除の原因を考察する必要がある。有識者のなかには、原因を一つに集約して断じるが、そのように単純ではなく、ケースごとに原因は異なると考えている。
 第1に考えられる原因は、外見、服装、習慣などから生じる外国人に対する違和感や警戒感である。これは外国人に限らずホームレスなどに対する場合でも生じることがある。
 第2は、外国人の人格を軽視し、見下す意識から生じることがある。特に途上国の出身の人に対する場合に見られる。日本に限らず欧米でも見られる。
 第3は、騒音、大声での会話、ごみの散乱など生活環境問題や不法滞在、社会保険料や医療費の未払いなど違法行為などで外国人から被害を受けているという不満から生じる。これは、最近は多くなったように感じる。
 第4は、外国人が土地、高層マンション、山林等を爆買いすることが目立つようになったが、その目的が不明瞭で、安全保障や日本経済に与えるダメージの不安から差別や排除が生じている。
 このほかの原因も考えられるが、次回はこの原因によって生じている問題と対策について深めていきたい。

研究部門 済生会総研 客員研究員 産業医科大学 産業保健データサイエンスセンター学内講師 藤本 賢治

後期高齢者疾病構造の変容

1. 背景
 日本では急速な高齢化が進行しており、とりわけ後期高齢者の人口増加が医療・介護需要の増大をもたらしている。医療提供体制や介護保険制度の持続可能性を確保するためには、単に人口の増減を把握するだけでなく、疾病構造の変化や医療費の動向を詳細に分析する必要がある。
 後期高齢者医療広域連合では、各自治体での75歳以上は全て網羅されており、医療費動向や疾病構造を把握する基盤となるが、長期縦断データに基づき疾病の有病率や医療費の変遷を包括的に検討した報告は必ずしも多くない。また、医療機関の立場からは、3年程度の中期的な視点で、商圏内の人口構造や疾病有病率の変化、医療提供体制(医師数や診療科構成)の変動を見通すことが、経営リスクの把握やマーケットシェアのコントロールに不可欠である。その際、人口の増減だけでなく、有病率と医療費の変化を組み合わせて把握することが求められる。
 そこで、本研究では、72市町村のデータを用いて、2013年度から2023年度にかけての疾病構造の変容を明らかにし、中期的な医療・介護計画立案に資する知見を提供することを目的とする。

2. 目的
 2013年度と2023年度の後期高齢者における疾病別有病率および一人当たり医療費を比較し、疾病構造と医療費構造の変容を明らかにすること。

3. 方法
 3.1 データおよび対象
 分析には、2013年度から2023年度までの72自治体における後期高齢者医療広域連合の医療レセプトデータを用いた。対象は、当該期間に資格を有した後期高齢者であり、医療レセプト情報を用いた。
 疾病構造の分析では、2013年度と2023年度の2時点に着目し、主要な疾病区分について有病率(当該年度の疾病保有者数÷加入者数)と年間一人当たり医療費(当該疾病に係る年間医療費÷有病者数)を算出した。両年度を比較し、有病率および一人当たり医療費が増加した疾病と減少した疾病を整理した。

4. 結果
 2013年度と2023年度を比較した結果、疾病別の有病率および一人当たり医療費には疾患ごとに異なるパターンが認められた。有病率・医療費ともに増加している疾病もあれば、有病率は増加しているものの一人当たり医療費が低下している疾病、あるいはその逆のパターンを示す疾病も存在した。

   
有病率
外来
一人当たり医療費
入院
一人当たり医療費
疾病 2013 2023 2013 2023 2013 2023
糖尿病 9.86% 10.61% 302,530 226,750 1,270,210 1,024,960
高血圧 32.82% 32.47% 242,690 174,480 1,138,090 894,880
脂質異常症 6.52% 9.98% 199,910 149,170 943,850 607,110
高尿酸血症 0.43% 0.45% 213,800 108,870 972,700 464,300
脳血管疾患 9.08% 5.89% 123,890 112,680 1,996,100 2,478,750
虚血性心疾患 6.75% 4.91% 206,280 156,660 1,104,650 1,211,330
慢性腎不全 1.73% 2.16% 2,370,050 1,472,510 1,929,080 1,759,740
胃がん 1.85% 1.23% 137,260 185,110 1,166,720 1,358,670
肺がん 1.66% 1.67% 156,070 403,040 1,350,430 1,665,750
大腸がん 2.35% 1.80% 178,790 197,610 1,226,800 1,613,520
子宮頚がん 0.13% 0.06% 68,670 137,350 1,479,310 2,054,020
乳がん 0.97% 1.33% 195,980 208,360 973,100 1,113,100
肝がん 0.91% 0.65% 173,950 463,700 1,161,960 1,464,370
前立腺がん 1.72% 2.04% 252,760 352,610 651,010 1,077,000
膵がん 0.36% 0.32% 139,810 346,120 1,436,080 1,591,890
子宮がん 0.24% 0.16% 69,020 144,580 1,388,710 1,818,300
白血病など 0.60% 0.67% 461,600 731,750 2,165,720 3,278,270
認知症 6.15% 6.03% 242,060 209,570 2,252,740 2,556,320
気分障害 2.02% 1.64% 163,210 140,710 2,103,510 2,459,100
メンタル 3.64% 3.25% 141,310 106,530 1,992,480 2,269,650
神経症性障害 1.73% 1.70% 108,610 70,150 1,554,450 1,617,200
頭痛 0.83% 1.04% 55,490 39,150 690,760 602,220
睡眠障害 2.97% 1.81% 176,410 113,990 924,080 558,360
睡眠時無呼吸症候群 0.25% 0.49% 164,410 222,540 205,930 300,050
緑内障 3.45% 6.58% 88,950 73,910 580,900 584,150
心不全 3.25% 4.24% 201,060 204,230 1,302,990 1,399,170
心房細動 1.76% 2.74% 190,580 201,050 1,094,010 1,727,410
骨粗しょう症 5.53% 4.85% 172,100 108,590 1,058,020 1,053,530
骨折 7.85% 8.85% 85,590 100,640 1,493,730 1,830,650
腰痛 7.23% 7.10% 107,830 73,020 902,360 969,700
慢性閉塞性肺疾患 0.53% 0.70% 261,420 213,250 1,536,430 1,350,760
   
有病率
外来
一人当たり医療費
入院
一人当たり医療費
疾病 2013 2023 2013 2023 2013 2023
肺炎 2.66% 3.84% 36,480 66,090 751,420 989,430
誤嚥性肺炎 9.06% 3.84% 125,520 72,290 1,671,550 1,943,700
かぜ 5.55% 5.55% 16,760 27,490 274,080 544,270
インフルエンザ 0.52% 0.52% 17,960 26,780 268,330 468,150
アレルギー性鼻炎 3.30% 3.52% 44,690 35,060 713,700 575,950
熱中症 0.16% 0.16% 16,170 29,340 274,320 579,000
胃腸炎 7.34% 8.04% 118,260 90,480 635,950 532,400

 他方、加入者数について、2023年は2013年と比較すると1.4倍の人数となっていた。
 2013年度の加入者を10万人と想定した場合、2023年の加入者は14万人となる。骨折については、有病率が7.85%のため、有病者数は7,850人になる。2023年は有病率が8.85%のため12,744人と推計され、患者数は約1.6倍に増加していた。これは対象人口の増加に加え、骨折リスクを有する高齢者の増加が背景にある可能性を示唆する。
 虚血性心疾患では、有病率はむしろ低下したが、加入者が増加したため、結果として患者数は増加した。このように、患者数のみを見ると疾病負担を過大または過小評価するリスクがあり、有病率と合わせて評価することの重要性が示された。

 5. 考察
 5.1 疾病構造の変容と医療政策への示唆
 本研究では、2013年度と2023年度を比較することで、後期高齢者における疾病構造と医療費構造が疾患ごとに異なる変化パターンを示していることが明らかになった。骨折のように患者数・有病率ともに増加している疾患は、今後も医療・介護両面での負担増が見込まれる。一方、虚血性心疾患のように患者数は増加しているが有病率は減少している疾患は、一次予防・二次予防の成果や治療の標準化の影響を反映している可能性がある。
 これらの結果から、医療機関は中長期の収入の伸びを予測する際、単に過去のトレンドを延長するのではなく、疾患別の有病率と人口構造の両方を踏まえてシミュレーションを行う必要があることを示している。また、特定疾患の患者数と有病率の動きを踏まえて、診療科構成やマンパワー配置、地域におけるマーケットシェアの維持・拡大戦略を検討することが求められる。

 5.4 本研究の限界
 本研究にはいくつかの限界がある。第一に、本分析は観察研究であり、因果関係を直接的に推定するものではない。骨折入院や疾病有病率に影響する生活習慣や社会経済的要因など、データに含まれない交絡因子の存在が考えられる。第二に、疾病の定義はレセプト情報に依存しており、診断のばらつきやコーディングの違いが結果に影響している可能性がある。第三に、解析対象は72自治体であり、全国や医療機関が属する自治体の傾向を示しているとは限らない。
 今後は、より詳細な個人属性や生活習慣情報を組み合わせた解析や、他地域のデータとの比較検討を通じて、結果の一般化可能性を検証する必要がある。

6. 結論
 本研究では、後期高齢者医療広域連合のデータを用いて、2013年度から2023年度にかけての疾病構造の実態を検討した。その結果、疾病によって患者数と有病率の変化パターンは異なり、患者数のみでは疾病負担を適切に評価できないことが示された。
 今後、自治体や医療機関は、人口構造と疾病構造の変容を踏まえた中期的な医療・介護資源の配分と予防戦略の立案を進める必要がある。その際、本研究で示したようなデータに基づくリスク評価と患者動向の把握が重要な役割を果たすと考えられる。

―編集後記―

 12月に入りました。最近のトレンドなのか、街の方々が持つバッグにつけているバッグチャームのぬいぐるみが増えるとともにどんどん大きくなっている気がします。以前もスマホの前の機種の携帯電話にストラップをつける流行がありましたが、その比ではない大きさのぬいぐるみをそれぞれのバッグにつけています。
 リュックや通学用と思しきバッグを手にする若い人だけでなく、年配の方でも高級そうな鞄にぬいぐるみをいくつかぶら下げているのを目にします。この現象が春に向けてどう変化していくのか観察していきたいです。ちなみに携帯本体よりもストラップの方が重くなってきた段階で以前の私は全部外したのを思い出しました。手首や腕の筋肉痛もなくなり、すっきりとしたことを覚えています。ブームっておもしろいです。 (Harada)

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