済生会総研News Vol.09

総研News 一覧はこちら ≫

済生会総研の視点・論点 済生会総研 所長 炭谷 茂
第8回 ~ブランドの確立・向上の基本原理~

 企業経営で最も重要なことは、ブランドの確立である。経営者は、そこに心血を注ぐ。経営学の教科書は、詳細に論述している。
 以前、休暇村協会理事長を務めていたが、最大の資産は、「休暇村」というブランドだった。
 昭和30年代の高度成長期でサラリーマンは、余裕が出始めたころ、家族とささやかな旅行をすることが最大の楽しみだった。手ごろな料金で家族で寛げる休暇村が人気を集めた。毎年夏には、混雑する休暇村が報道された。国民の認知度は、高くなり、高校生が使う地図帳にも所在地が記載された。
 その後国民の余暇の過ごし方が多様化し、休暇村の利用者が減少した。人気を挽回すべく料金を下げたことが、裏目に出た。休暇村のブランドが棄損されてしまった。回復するには相当の費用と時間を要した。
 同じような経験をした企業は、多い。
 日本マクドナルド社を創業以来、関心を持って観察してきたが、開業当初からアメリカ文化を象徴する食べ物として日本人の心を掴み、急成長した。ブランドは、日本市場で確立した。しかし、平成に入り、国民に節約志向が広がり、売り上げを上げるため価格を引き下げた。これがブランドを棄損し、長期の経営不振に陥った。最終利益を上げるための店舗の閉鎖等のリストラは、短期的に利益を増加させたが、持続的な効果はなかった。
 現在のカサノバ社長は、原点に戻ってブランドの回復に力を注ぎ、消費者のニーズの変化に対応した設備投資を積極的に実施する方向に転換し、V字回復を示した。
 2月上旬、日本政策投資銀行主催の講演会でロイヤルホールディングスの菊地唯夫会長の興味深い話を聞いた。ロイヤルホストなどを経営する同社は、減収増益→増収減益→減収増益を繰り返していた。減収になると収入を上げるため投資を増加させるが、コスト増で減益、そこで利益を増加させるためリストラを行う。これでは企業の持続的発展は、期待できない。
 菊地会長は、社長就任時から同社のブランドの再構築を行い、企業の基本である増収増益にすべく「攻めの経営」に転じ、成功を遂げた。
 済生会は、歴史、理念、組織、規模などで他の団体を圧倒する力を有している。これを最大限に生かし、済生会のブランド力の確立、向上に努力している。近年済生会が地域での信頼が高まってきたのも、ブランドが浸透してきたからだ。一層のブランドの向上方策を研究していかなければならない。

研究部門

第70回済生会学会 シンポジウムを振り返って

第70回済生会学会 シンポジウムを振り返って 2月18日の第70回済生会学会にてシンポジウム1「済生会保健・医療・福祉総合研究所による活動報告」(座長:山口研究部門長)を行った。

 発表者として、松原所長代理、持田上席研究員、原田上席研究員に加えて、篠原上席客員研究員(山口地域ケアセンター)と藤本客員研究員(産業医科大学)が登壇した。

 まず、松原所長代理より、済生会総研の設立目的や研究部門と人材開発部門の方向性についての概要説明がなされた。
次に、福祉分野の発表では、原田上席研究員が、済生会総研における福祉分野に関する研究の全体像と活動報告として、「地域包括ケア」、「済生会DCAT」、「なでしこプラン・刑余者の就労支援」についての研究の進捗状況とこれまでの研究結果の報告をした。
さらに、篠原上席客員研究員(山口地域ケアセンター)が、「社会福祉法人として取り組む刑余者支援~実践報告から~」として、山口地域ケアセンターで行っている刑余者支援の実践についての発表を行った。
医療分野の発表として、持田上席研究員が、「DPC等のデータを活用した病院経営の在り方及び病院経営に資する分析手法等に関する研究の進捗状況の報告」として、各病院からの客員研究員とチームで行っている2つの研究についての発表を行った。
最後に、藤本客員研究員(産業医科大学)より、「都道府県での医療及び介護政策におけるビッグデータの活用」として、自治体における医療と介護に関するデータ分析が政策にどう活用されるのかについての情報提供がなされた。
それぞれの発表後、全体討議の時間を設け、フロアからの質問や意見がとびかう活発な意見交換の場となった。
今回のシンポジウムを通して、研究成果の発信を行うのみならず、さらに意見交換を行うことで今後の研究をすすめるにあたっても有意義な機会となった。

 日頃から研究にご協力してくださっている方々、シンポジウムにご参加くださった皆様、また、学会の場を提供くださった学会運営事務局の福岡県済生会二日市病院のスタッフの皆様に感謝いたします。

 

人材開発部門

医療技術者マネジメント研修会

医療技術者マネジメント研修会 2月22日に医療技術者マネジメント研修会が開催され、リハビリスタッフや診療放射線技師等40名が参加しました。この研修は医療技術者にも本会の理念や使命を意識した病院経営への関わりが求められ、マネジメントを行うリーダーの育成が急務であるということから、平成27年3月以降、本部と事務部長会が協働で実施しており、これまでの受講者総数は476人となりました。
 この研修は、本会の理念・使命の浸透と共有を図ること、リーダーに求められる基本行動や業務改善・目標管理等のビジネススキルを学習することなどを目的としています。参加者はレクチャーやグループワークを通して済生会人としての心得の他、マネジメントの基礎やリーダーシップの実践を学びました。グループワークでは「クイズ」の答えをグループ毎で導き出す過程で、実はリーダーに求められるスキルを見つける演習もあり、楽しく研修に取り組んでいる様子が見られました。
 研修の最後には、参加者同士で軽食を取りながらの情報交換会を行い、研修の振り返りや日頃の苦労話の共有し、明日からのお互いの健闘をたたえ合っていました。

アドバンス・マネジメント研修III(看護師)

アドバンス・マネジメント研修III 中堅看護師を対象としたアドバンス・マネジメント研修IIIが1月16日~18日および1月30日~2月1日に開催され、合計77人が参加しました。
 研修は3部構成で、第1部は炭谷茂理事長の「看護に関する済生会原論―済生会人として知っておいてほしいこと―」と題した基調説明。
 第2部は関東学院大学大学院看護学研究科委員長・金井Pak雅子氏が「より輝ける中堅看護師を目指して」と題して講義。組織の変革者として中堅看護師に期待される役割やコミュニケーションスキルについて説明しました。
 第3部は高輪心理臨床研究所主宰・岸良範氏による講義「人間関係とリーダーシップ―互いに育てあう職場を目指して―」に加えてグループワークを実施しました。2日間にわたる講義でしたが、受講生の90%以上が「今後に大いに生かせる」と答えるなど好評を博しました。

済生会総研から

研究員着任のお知らせ

 この2月に山口地域ケアセンターより出向で済生会総研(福祉分野)の研究員として着任しました吉田護昭です。私の簡単な自己紹介をさせて頂きます。
 私は福祉系の大学を卒業後、2年間、病院勤務をしました。しかし、大学時代から在宅福祉に興味を抱いていた思いは消えず、その思いを実践できる場として、出向元である山口地域ケアセンターに入職しました。入職後はデイサービスや居宅介護支援事業所など、高齢分野で在宅支援を中心に11年間、その後、4年間、障害分野(在宅、入所)でソーシャルワーカーとして実践してきました。
 実践現場には多くの疑問や課題等があります。その実践現場の最前線で、日々たゆまぬ努力をされている専門職の実践活動や施設の取り組みなどを研究に反映し、「済生会だからこそできる、済生会にしかできないこと」を研究成果として出していくことができればと思います。
 そのためにも、現場のみなさまの参画を得ていくことは必須であり、現場のみなさまと共に研究を進めていきたいと考えています。
 ちなみに、済生会の事業において、障害分野は数少ない事業の一つであります。特に、私が済生会総研の着任前まで従事していた障害者支援施設(入所)は、全国の済生会に5施設あります。
 そこで、現在、取り上げている福祉分野の研究4テーマ以外に、障害者支援施設(入所)に関する研究を進めていく予定にしています。その研究を進めていくにあたって、現在、関連領域における先行研究の整理をしています。本研究を機に、障害分野全般に渡った幅広い視点での研究へと進めていくことができればと考えています。
 現場のみなさまからの多くのご助言やご協力をいただきながら、今後ともご指導、ご鞭撻のほど、どうぞよろしくお願い申し上げます。

吉田護昭
(済生会総研 研究員 吉田護昭)

Adobe reader

PDFファイルをご覧になるためには Adobe Reader が必要です。
お持ちでない方は、 Adobe Readerをダウンロードしてください。