済生会総研News Vol.06
8月下旬、金沢市で開催された済生会病院長会での講演で「医学の進歩は,激しい。学生時代に学んだことと現在の医療と異なることがかなりある」と聞いた。理科系の学問については、知識が乏しいが、社会科学系の学問についても日進月歩だ。
国家公務員を退官後、今年の文化功労章を受章された村松岐夫先生に招かれ、学習院大学法学部の特別客員教授として行政学関係の講義を担当した。このため現在大学で使用されている代表的な行政学の教科書を数冊買い求めた。
読んでみると、学生時代のものと全く異なる。学生時代は辻清明や吉富重夫の教科書が一般に読まれていた。欧米の理論の説明が多く、難解で一語一語吟味しながら読み進んだ。現実の日本の行政に当てはまるのか疑問に感じた。
しかし現在の教科書は、日本の行政の実態を基礎にしている。私が行政実務の経験を積んだためか、大変分かり易い。行政官には実務に役立つ内容である。学問として異次元の発展を遂げている。
福祉の分野も全く同様である。私が旧厚生省に勤務したころの福祉関係の文献は、極めて難解だった。繰り返し読んでも理解できなかった。
昭和40年代までの「社会福祉学」(学と呼ぶのが適当か議論もあったが)の研究者の大半は、哲学、歴史学、経済学など他の分野から中途に転じた人だった。哲学のように一つの言葉を徹底的にこだわって論じる、マルクス経済学から日本の福祉を徹底的に批判するなどの内容で、行政には役に立たなかった。
この段階が日本の社会福祉学の第1期である。第2期になると、研究者は、スタート時点から社会福祉を専攻する人が主力になった。福祉の現場からの情報を基礎に研究が行われるようになった。対人サービスの実施方法、社会福祉施設の経営、社会福祉政策のあり方など現実的なテーマについて研究成果が出されるようになった。
平成に入ると多くの福祉系大学が設立され、福祉の現場や行政の経験者がたくさん研究分野に加わった。このため社会福祉学は、実務に極めて接近し、実用性を増してきた。これが第3期である。
これから第4期に入らなければならない。第1期からの研究成果を踏まえ学問的に深く、 実質的に福祉の向上に貢献する社会福祉学の発展を期待したい。
済生会総研は、社会福祉学の成果を活用して研究を行う一方、社会福祉学の発展に貢献したい。
研究部門
研究部門長あいさつ済生会総研 研究部門長 山口 直人
本年4月から済生会総研の研究部門長を務めています。来年3月までは東京女子医科大学との兼務ですので毎週木曜日に勤務し、原田上席研究員、持田上席研究員を始め、本部の皆さんとも楽しく仕事をしています。自分自身は本格的な仕事はできていないため、自己紹介も含めて、済生会の発展に向けて検討したいと考えていることを書きたいと思います。
私は医学部卒業以来、疫学を仕事としてきました。疫学は、急性伝染病の原因究明が主な領域でしたが、1950年代以降は、がん、循環器疾患などの慢性疾患を対象として発展してきました。その中で確立されたのが長期追跡調査の重要性です。コホート研究と呼ばれる追跡調査を重視する手法が発展し、その結果として、アウトカム重視の疫学が確立しました。臨床医学の世界でも、治療行為が患者にどのようなアウトカムをもたらすかを追跡調査で究明する臨床疫学が発展しました。
近年、情報技術の発展に伴って追跡調査も効率化され、治療行為のデータベースと治療効果や有害事象などのアウトカムのデータベースを共通IDコードで連結して、データベース上で追跡調査を行う研究手法が発展しつつあります。済生会本部が運営する経営管理システムは膨大な臨床データ、経営管理データを含んでおり、その中で、医療行為とアウトカムの関連が分析できないか、是非とも検討を進めたいと考えています。特に、有害面でのアウトカムは評価が困難であるばかりでなく、有害事象への治療という本来は必要なかった医療行為が経営面にもマイナスに作用し、さらに、医療の質に対する社会の評価にも影響します。有益性と有害性の両面で分析を進めていきたいと思います。
医療の標準化は確実に進んでいます。私は長年、診療ガイドラインの作成と活用の事業に関わってきましたが、診療ガイドラインでは、科学的根拠の確実性、有益性と有害性のバランスを考慮した推奨が提示され、医療サービスの整合性が改善されてきました。福祉については勉強中ですが、医療と同様に福祉についても、どのような方法が最適なのかを検討してゆくことは有益と考えます。福祉のデータベースがさらに充実してくれば、そのような標準化も可能となるでしょう。さらに、医療のデータベースと福祉のデータベースが共通IDコードで連結できれば、医療と福祉の連携についての分析の幅と深さが増すと考えます。
済生会に入職してから、医療も福祉も個別的な取り組みが重要であることを以前にも増して痛感ようになりました。データベースの分析は施設間格差の解消、許容範囲を超えた診療のバラツキを改善してゆくことに役立ちますが、医療や福祉の利用者の個別性、価値観の多様性への配慮がきわめて重要です。施設についても、地域的な個別性に配慮した、それぞれの施設の目指す方向性を尊重した活動を済生会総研は目指すべきと考えます。御指導をよろしくお願いいたします。
人材開発部門
1. 研修の報告
【第2回 済生会地域包括ケア連携士養成研修会】
11月13日から16日の4日間にわたり、第2回済生会地域包括ケア連携士養成研修会が開催された。病院のMSWや看護師、福祉施設の相談員、介護支援専門員、訪問看護師など、様々な連携業務に携わる86名が参加した。本研修は、5年で500名の済生会地域包括ケア連携士(以下、連携士)を養成する予定で、今回で2回目の開催となる。
講義内容は、高齢、障害、児童、生活困窮者など各分野における連携や、施設における地域貢献、さらには、ケアマネジメントやICF、職種間連携など多岐にわたった。
90分の講座が15回続くハードな研修となったが、「始まる前は長いと思っていたが、充実した講義でそれを感じなかった」、「どれ一つとっても、貴重な講義ばかりでよかった」、「4日間では時間が足りない」といった意見が寄せられた。
また、グループワークや交流会を通じた、他の施設との情報交換が刺激となったとの意見も多かった。
今後、課題レポートが提出された後に、済生会地域包括ケア連携士認定書が発行される。本研修により養成された連携士が、各職場でその力量を十分に発揮できるよう、組織全体で取り組んでいくことが期待される。
済生会総研から
来年4月の診療報酬・介護報酬改定は、サービス提供体制を効率的なものにする事や医療から介護にむけて、スムーズな流れを作ることが求められます。これまでに様々な情報が発信されています。それぞれの施設で何をするべきか、どこまでできているのか十分に把握し、施設内で情報共有して準備を進めて、診療報酬・介護報酬改定を良い形で乗り越えてましょう。済生会総研でも必要なデータがあるようでしたら協力させていただきます。よろしくお願いします。

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