済生会総研News Vol.05

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済生会総研の視点・論点 済生会総研 所長 炭谷 茂
第4回 ~ 福祉国家の基本構造 ~

 社会には誰も疑わない観念が存在する。疑いを持っても指摘することが社会的に許されない空気がある。しかし、この観念は、本来は時代とともに変化し、新しい観念に置換する性格のはずである。

 「リサイクルに費用がかかる」という観念が、今や社会の中に定着した。確かに地球資源は、限られている。自動車や家電製品の廃棄者は、リサイクル料金を支払う。かつてはこれらの処分は、無料ないしは買い取ってくれた。
 しかし、「リサイクルに費用がかかる」という国民の観念の定着に乗っかり、リサイクル費用の徴収範囲の拡大の動きが発生する。
 私は、公務員の最後は、環境行政の責任者だった。環境重視の立場の人は、有料化の拡大に賛成だが、私は、事例ごとに慎重に対処すべきという立場だった。リサイクルは経済合理性を考慮し、無用な負担を国民に求めるべきでない。現在古紙、地金のように有価で取引されるモノは、市場に任せるべきで、公的なリサイクルの制度化は不合理だ。
 自動車のバッテリーは、価値の高い鉛の塊で、現在有価で取引される。しかし、不法投棄され、有害物質が漏出するので、有料のリサイクル制度の導入が議論されたが、私は、国民に無用な負担をかけること、非効率的な官庁や企業の「天下り」組織を作ることなどから反対した。

 「高福祉には高負担は当然である」という観念も定着している。異議を唱えると、将来世代に負担を押し付ける無責任な議論だと批判される。
 現代の福祉国家は、1942年のべヴァリッジ報告が出発だった。福祉国家は、戦後の高い経済成長と人口増加に支えられ、先進国で成熟した。しかし、これらの基礎条件は崩壊してしまった。
 高齢者等受益者が増加する一方、負担者の負担能力が低下している。負担は、限界に達しつつある。そこで費用を抑えて、福祉を増大する道を探らなければならない。こんなことはできるのか?
 実はベバリッジ報告は、経済の発展につなげ、負担を抑える方法を示唆している。ベバリッジは、ケインズの影響を強く受けているが、就労の促進、住民の福祉活動、効率的な福祉運営を重視している。
 この見地から日本最大の医療と福祉サービスを実施する済生会が行えることは、たくさんある。本研究所でこの分野を研究し、本会が実行することは、国民の負担を増加することなく、福祉国家の再生に貢献できる。

研究部門

総研近況 済生会総研 所長代理 松原 了

 設立以来7ヶ月を経ました。これまで支部長会議、三役会議、ブロック会議など機会を捉えて報告をしてきましたが、本会内外からの総研に対する期待は想像以上に大きいと感じています。
 研究所の日頃の活動を紹介します。研究の常勤スタッフは、3名です。研究部門長の山口先生は、東京女子医大の医学部公衆衛生学の教授であり、週に一回木曜日に来会いただき、3人のスタッフと所長代理である私との総勢5名が定例打合せをしています。必要に応じて本部事務局も参加し、諸規程の作成、研究推進に係る諸事務処理や研究テーマや目的、方法などについて話し合っています。研究所庶務は専用スタッフを置いておらず本部事務局兼務です。研究所が発足したばかり故の煩瑣な事務処理も沢山あります。
 上席研究員の持田は横浜市東部病院で特に医事関係の経験が豊富であり、DPC分析を中心に経営管理の研究を進めており、最近漸くデータ分析結果の一部が出たところですが、様々な方向への発展の可能性が期待されます。具体的には入院時薬剤管理料などの請求項目について請求割合が69施設において極めて大きなバラツキがあることが確認されました。バラツキの原因はどのような事情によるものかを、本会病院からの客員研究員も交えて今後議論することになります。
 もう1つは29年度機能評価係数IIによる収入について、前年度と比較したところ、7割強の病院の係数が減少する見込みでした。係数減の病院では複雑性、効率性など8つの要素のどこを改善すれば機能評価係数IIの増に繋がるかについて、本会病院事務からの客員研究員を交えて分析する予定です。DPCに関する研究について、研究テーマや課題について、本会病院から、興味深い提案を積極的に寄せていただきたいと思っています。
 また、産業医大松田教授の教室から客員研究員、非常勤で2名の応援をいただくことになりました。これまで総研顧問の松田教授の指導の下行ってきた医療福祉の質に関する研究を、電子カルテやレセプト、DPCデータを駆使して一層進化させることが期待できます。
 福祉部門では長崎国際大学准教授を経て着任した原田上席研究員がおりますが、済生会での日も浅いため、顔を知っていただく事と研究のための人脈作りに務めるようにしています。研究心のある本会施設の皆様から声がけされるよう、地域包括ケアをはじめ、済生会DCATやなでしこプラン(刑余者等の研究)に繋がる地域に出向いて、コミュニケーションを深め、研究打合せを進めているところです。地域包括ケアのテーマは幅広く茫漠とした感があるため、広がった人脈を活用して各地での地域包括の取り組みをどのように研究成果に収束させていくかが課題です。
 研究員に温かい声援を送っていただきたく存じます。

 

人材開発部門

研修の報告

【臨床研修管理担当者研修会】

 10月2日、臨床研修指導医や事務担当者62名が参加した臨床研修管理担当者研修会が済生会本部で開催されました。
 この日は、済生会病院間における「初期研修医の交流プログラムの検討」と済生会熊本病院の「包括診療医」の取り組みについて事例発表と参加者同士によるディスカッションが行われました。
 初期研修医の交流プログラムとは、2年間の初期臨床研修の中で一定期間、他の済生会病院で研修医が地域医療や救急医療の研修を行うものです。事例発表では自院では経験できない症例を経験できてよかったという研修医からの感想があった一方で、限られた期間の中でより良い研修を経験してもらうためには、送り出す病院と受け入れる病院の双方で研修医に対してフィードバックして研修医を育てることが重要であるという意見もありました。
 「包括診療医」の取り組みでは、包括診療医が主治医や病棟専属の薬剤師・栄養士と連携して業務することで、入院患者さんの手術後の体調管理や急変時の対応をより迅速に行うことができるようになり、患者満足度が向上したとの発表がありました。また、包括診療医が中心となり安全管理に取り組むことや、医師・看護師・事務スタッフ等で病院運営上の課題などを話し合うことで、職員の知識や技術の向上に繋がり、職員から高い評価を得ていることも報告されました。

済生会総研から

 今回の済生会総研Newsでは、炭谷所長の連載だけでなく、松原所長代理にも執筆していただき原稿を掲載することができました。原稿にも記されていた“毎週木曜の研究ミーティング”では、研究活動の進捗状況を研究員が報告し、さらによりよい研究になるようディスカッションを重ねています。また、研究環境を整えるための話し合いもなされています。
 この積み重ねを経て、研究の成果を現場にフィードバックできるよう、また済生会の各施設の取り組みを理論化・普遍化して済生会内・外に発信できるように取り組んでいきたいと考えております。目下のところ、来年2月に行われる済生会学会での報告に向けて、これまでの研究成果とこれから期待できる研究成果について検討しているところです。

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