済生会総研News Vol.04

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済生会総研の視点・論点 済生会総研 所長 炭谷 茂
第3回 ~ グローバル化への対応 ~

 最近日本のどこでも外国人観光客が多くなった。9月11日、大阪府済生会支部が実施した釜ヶ崎健診を視察したとき、釜ヶ崎でバックパッカーの外国人の若者を見た。安いホテル料金が魅力なのだ。
 平成28年の訪日客数は、2,400万人になった。10年前の18年が700万人だから、3倍以上の増加である。政府は、オリンピック・パラリンピック開催の平成32年には4,000万人を目標にしている。
 私は、平成19年に休暇村協会理事長だった時、外国人客を取り込むため、手始めにソウルに事務所を開設した。これには宿泊施設の支配人から異論が出された。
 当時、中小のホテル業界は、外国人客をターゲットにしなかったので、費用対効果がない、アジアの国の宿泊者とのトラブルが絶えず、日本人客が逃げてしまうという意見だった。
 私は、日本でグローバル化が進んでいくので、積極的に外国人観光客を顧客にしないと、早晩ホテル業は、壁にぶつかると判断した。参考にしたのは、ヨーロッパの状況で、田舎の小さなホテルでも外国人観光客が宿泊している。

 「アメリカファースト」をスローガンにするトランプ米大統領は、国際協調よりも自国利益を最優先にする政策に傾斜する。移民排除政策が目玉公約である。これは、自由貿易によって成長してきた世界の歴史に逆行する。アメリカ経済も海外からの移民によって支えられてきた。
 グローバル化が進む歴史の歯車を止めることは、誰にもできない。グローバル化の推進こそ人類の平和と福祉にとって望ましい。相互の理解・交流が深まれば、戦争は避けられる。技術移転によって途上国の経済成長が促進される。
 日本は、地理的歴史的事情、国民性等が原因してグローバル化では遅れを取った。しかし、最近大きく変化し始めた。
 医療分野でもグローバル化に対応していかなければならない。このために研究しなければならないテーマがたくさんある。
 日本における外国人医療費の見通しは?外国人が病院選択に役立つ情報の発信方法は?診療に当たってのコミュニケーションの確保や宗教や文化の差異の解決策は?医療保険によってカバーされない患者が多いが、この場合の対処方法は? 等々
 これらの問題を研究し、解決方法を開発していくことが緊急の課題である。

研究部門

研究活動報告 「済生会の病院のDPC 機能評価係数Ⅱの現状とその課題」上席研究員 持田勇治

Ⅰ. はじめに

 済生会総研中期事業計画で、病院経営改善につなげることを目的として、DPC等のビッグデータを活用した病院経営に資する分析等に関する研究である「DPC機能評価係数Ⅱの現状とその課題」を進めている。

Ⅱ. 研究の目的

(1)研究の背景
 DPC請求に関する係数は、病院群ごとに決定される「基礎係数」、施設基準により決定される「DPC機能評価係数Ⅰ」等がある。今回は、「DPC機能評価係数Ⅲ」についての研究を行う。DPC機能評価係数Ⅲは、公示前々年10月から前年9月までの診療実績により、厚生労働省が決定し公示されるが、厚生労働省からは機能評価係数Ⅱの詳細な決定プロセスを示されいない。したがって、各病院では独自の理解・分析のもとで様々な対応を行っている背景がある。

(2)研究の目的と研究によって期待される成果
 済生会本部経営管理システムで収集している膨大なDPCデータを使用して、DPC機能評価係数Ⅱの決定プロセスを深く解明することを目的とする。最終的には、解明された決定プロセスを済生会病院全体で情報共有して医療機能改善に向けた対策を可能とするとともに、病院経営改善につなげる。また、済生会内でワークショップを開催してDPC機能評価係数Ⅱ向上に向けた方策を共有したいと考えている。

Ⅲ. 研究の内容

(1)研究の対象
 経営管理システムに集められたデータ、機能評価係数Ⅱの公表データ等を使用する。

(2)研究の方法
 済生会病院のDPC参加病院の診療データからDPC機能評価係数Ⅱの指数を算出する。算出された指数と実際に公示された機能評価係数Ⅱとの比較、検証を重ねて、さらなる指数算出の精度向上を目指す。DPC機能機能評価係数Ⅱでは、病院機能の評価されている点についての理解を深めることにより、各病院で具体的な対応について考える契機としたい。

Ⅳ. 研究の進捗状況

 現在最初の研究活動として、済生会病院の平成29年度DPC機能評価係数Ⅱ(8項目)を前年度係数との変動状況を把握した。病院ごとの診断群分類包括請求額(DPC係数のかかる金額)の情報を検討要素として加え、平成29年度機能評価係数Ⅱ公示による済生会全体の経済的な影響を算出した。

Ⅴ. 調査結果

 平成28年度から平成29年度は、診療報酬改定がなかったために、DPC機能評価係数Ⅱに付与される財源は同額になる。しかし、今回の調査では、済生会病院においてのDPC機能評価係数Ⅱ全体の変更による影響は、前年比較でマイナス0.049%であった。
 最も変化の大きかった係数は「効率性係数」はマイナス0.023%、次いで「後発医薬品係数」は、マイナス0.020%であった。

Ⅵ. 考察

 「効率性係数」は、係数決定プロセスを理解して対応を考える事により、係数を向上させられると考えられ、今後の重要な研究課題となる。「後発医薬品係数」は、昨年度係数算出調査期間で上限に達している済生会病院は22病院で、今年度は36病院と増えている。しかし、全国のDPC病院においての係数算出調査期間で後発医薬品使用割合が増えて、上限に達する病院が増加したことにより、平成29年度の後発医薬品係数の上限が引き下げられたための影響と考えられる。
 また、DPC総請求額における診断群分類包括請求額(DPC係数のかかる金額)の割合は、平均30.4%(最大41.1%・最小21.9%)であり、DPC総請求額の低い病院は、この割合が高い傾向が見受けられるので、それらの病院はDPC機能評価係数Ⅱを改善に向けて積極的に活動を行う必要があると考える。

Ⅶ. まとめ

 全体平成29年度DPC機能評価係数Ⅱの公示により済生会病院において、マイナス0.049%の減収となっていることからも、機能評価係数Ⅱの決定プロセスを各病院で理解し対応することは有意義であると考える。ついては、今後研究を進める中で済生会の54病院のビッグデータを使用して、DPC機能評価係数Ⅱ決定プロセスの理解を深め、各病院の課題を検討していきたいと考える。

 

人材開発部門

1. 研修の報告

【認知症支援ナース育成研修】

 9月12~13日、リーダーとして活躍できる中堅看護師(クリニカルラダー・レベルⅢ程度)81名を対象に、認知症看護を理解し、認知症看護の推進役となる「認知症支援ナース」を育成するための研修が行われました。
 今年度は2回の開催を予定しており、次回は10月12~13日に開催されます。

≪研修目標≫

  • 1.急性期病院における認知症ケアの現状と課題を理解する
  • 2.認知症の病態と診断、治療について理解する
  • 3.認知症の人における倫理的配慮と意思決定支援について学び、自施設にて尊厳なるケアの提供が実現できる
  • 4.認知症の日常生活におけるニーズを理解し、他職種協働によるサポートの仕組みを理解する
  • 5.認知症の人と家族が住み慣れた地域で暮らし続けられるように支える地域の仕組みを理解する
  • 6.知識を統合し、認知症支援ナースとして自施設でのアクションプランを考え、実践できる
【福祉施設リーダー研修】

 7月に続き、第2回となる福祉施設リーダー研修が9月4~5日に開催されました。老健、特養、保育園、障害児施設等から、職種を問わず23人が参加しました。
 グループディスカッションでは「自分たちが目指す済生会グループの施設のあり方」をテーマに、現状の問題点について活発に意見を出し合い、さらに「主体性の発揮―人間力を高める―」について討議しました。ある言動や価値観を別の視点から捉え直すことができれば前向きになることができ、職場の人間関係をはじめ、全てを良い方向へ向かわせてくれることを学びました。

済生会総研から

 これまで済生会総研Newsでは、いくつかの研究活動の経過報告をさせていただきました。今後の研究活動は、スピードアップし、内容も充実させていきたいと思っています。
 済生会総研の活動報告についてのご意見等について、是非とも今後の活動の参考にさせていただきたいと思います。研究部門の連絡先にいただければ幸いです。よろしくお願いします。

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