済生会総研News Vol.03

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済生会総研の視点・論点 済生会総研 所長 炭谷 茂
第2回 ~ バザーリア改革のその後 ~

 「日本の精神障害者対策は、ヨーロッパに比べて30年遅れている」と厚生省(当時)に在職時から述べてきた。少し過激だったが、客観的な精神障害者の医療、福祉、生活、就労等の状況から判断していた。藤井克徳日本障害者協議会代表は、私の発言を紹介しながら「わが国に生まれた不幸を重ねないために」という著書を発表し、精神障害者施策の充実を訴えた。
 英国に滞在していた1980年代前半、J.ビエラという第2次世界大戦時にヒットラーの弾圧から逃げれて亡命した精神医学者が隣人だった。ビエラは、1945年、精神疾患患者を閉鎖された病室から解放して野外でデイケアを世界で初めて行った。アドラーの直弟子の彼は、精神医療のあり方を語ってくれた。
 どこの国にも精神疾患患者に対する人権侵害は、発生する。英国では戦前に精神病院での虐待が明るみになり、1930年に精神科治療法が制定され、入院治療より外来治療を重視する政策が進めれた。
 戦後、NHS(国民保健サービス)の発足に伴い精神疾患患者の地域生活を促進するために、家庭医、ヘルスビジター、ホームヘルパー等による地域精神保健体制の充実が図られた。この路線は、1971年のシーボーム改革、1990年のコミュニティケア改革に継承されて今日に至っている。

 一方、イタリアではドラスチックに進行した。1971年トリエステにあったサンジョバンニ精神病院院長に赴任したF.バザーリアは、人間の尊厳性が無視された入院患者の現状に接し、患者の退院を強力に進めた。このために地域での医療、住居、仕事等の体制整備に力を注ぎ、すべての患者を退院させ、病院を廃止に追い込んだ。
 バザーリア改革は、1978年、「第180号法(バザーリア法)」として法制化され、、全国展開され、すべての精神病院は、廃止され、今日に至った。
 8月上旬、調査のためトリエステを訪れた、サンジョバンニ病院の跡地で経営されているレストランでバザーリア改革後の状況を聴取した。このレストランも精神障害者が「一人の労働者」として就労するため場である。給料は、一般の労働者と遜色ない。一般市民の利用で賑っていた。市内には4か所の地域精神保健センターが設置され、医療や日常の生活面の援助を行っている。
 精神障害者が地域で自尊心を抱いて暮らしていくためには、地域での援助体制の充実が必須だ。この点日本は、大きな遅れを取っている。

研究部門

若草エリアにおける研究活動報告

 済生会保健・医療・福祉総合研究所(以下、済生会総研とする。)では、総研NewsVol.1,Vol.2でお伝えをした(1)DPC 、(2)なでしこプラン(生活困窮者支援)、(3)医療と福祉の連携(地域包括ケア)などの研究課題について取り組んでいます。
 今回は「医療と福祉の連携(地域包括ケア)」のテーマを取り上げ「若草病院および若草エリアにおける地域包括ケア計画策定の支援、助言」について報告いたします(研究員 八谷弘文)。

(1) 研究の背景と必要性
 本研究活動は、医療・介護・保育・障がい者の施設を展開する若草エリア全体の整備に向けて、神奈川支部から協力依頼を受け、検討の結果協力を行うことになった。
 若草エリアでは、経営だけでなく、医療と福祉の連携(地域包括ケア)への取り組みも推進していくため、地域の課題を明らかにし、地域住民などが交流し集える拠点づくりや各施設の機能を活用した新たな事業展開を推進していくために済生会総研等との協働が必要になっている。

(2) 研究の目的
 本研究活動の目的は、医療福祉の複合体がエリア全体を整備していく実例をもとに、医療と福祉の連携(地域包括ケア)のあり方を明らかにしていく。実例をもとに取り組むことで、若草エリアでの医療と福祉の連携(地域包括ケア)システムの構築や済生会地域包括ケアシステム推進への寄与が期待できる。

(3) 研究の方法
 本研究活動は、主に文献や地域データを対象にした地域分析を行った。具体的な文献や地域データとしては、①「若草病院・若草エリアの概況」や「済生会若草エリアの中・長期的な在り方の計画」、②地域の人口動態等の統計データや地域内の同規模病院との地域ケアシステム(事業展開)比較、③子育てと親の介護を同時期に行うダブルケア等の複合的課題、④首都圏の大学生への仕送り額の減少からみる家計負担について等の分析を行った。
 また、済生会総研の支援の流れとしては、Ⅰ.若草エリアへの視察、Ⅱ.済生会総研と協働する目的の確認、Ⅲ.済生会総研での地域分析の実施、Ⅳ.地域の課題抽出、Ⅴ.若草エリア地域包括ケア計画レポート作成、Ⅵ.済生会総研から地域課題とニーズ充足のための具体例等を若草エリアへ報告することを行った。

(4) 結果
 地域分析の結果、次の3つの課題が抽出された。①地域内の同規模病院との地域ケアシステム(事業展開)比較結果から、若草エリアにおける事業展開の課題、②若草エリアの施設における対象者支援の在り方についての課題、③地域内に2つの総合大学があることから、大学生の生活困窮者支援についてである。
 さらに、この抽出された3つの課題は、済生会が目標としている地域医療への貢献、一体的なサービス提供、生活困窮者支援への取り組みに繋がる課題であることも明らかになった。

(5) 考察
 若草エリアでは、済生会総研が関わる前から取り組んでいる優先課題を解決しなければ、新たな取り組みを推進していくことが困難な現状がある。しかしながら、先に述べた3つの課題に対応するために、①若草エリアの施設機能等を活用した地域の保健医療福祉の拠点として、地域住民の健康増進や介護予防への貢献、②若草エリアが保有する施設機能等を活用した複合的な課題にも対応できる一体的なサービス提供を行い、安心して住み続けられる街づくりへの貢献、③地域で人口の減少や高齢化が進行していく中で、生活困窮の若者支援を街づくりに活かす取り組みが必要であると考える。
 さらに、現在取り組んでいる在宅医療や健康教室等の地域に出ていく活動と同時に、医療福祉施設エリアを地域に開放して人やもの等の流れを作ることが重要であり、そのための具体的な事業例を提示した。このように各施設の機能等を活用した新たな事業展開を含めた取り組みが、地域住民などが交流し集える拠点づくりに繋がると考える。

(6) 残された課題
 地域分析をもとに若草エリアが医療と福祉の連携(地域包括ケア)を推進するための済生会総研の支援としては、地域課題とニーズ充足のための具体例等の報告を行った段階にある。
 この報告を受けて若草エリアの各施設が、どのように第2期中期事業計画を作成し、具体化された事業展開等を行っていくかが今後の課題である。若草エリアが医療と福祉の連携(地域包括ケア)システムを構築していくために、引き続き若草エリア将来構想検討委員会と協働しながら支援を継続していく。

<参考文献>

  • 済生会若草病院(2017)「若草病院・若草エリアの概要」, 「済生会若草エリアの中・長期的な在り方の計画」.
  • 東京地区私立大学教職員組合連合(2017)私立大学新入生の家計負担調査 2016年度〈ホームページ掲載版〉.
  • 横浜市金沢区福祉保健課・金沢区社会福祉協議会(2016)「第3期金沢区地域福祉保健計画」.
  • 横浜市政策局政策課(2016)「特集ダブルケアとオープンイノベーション」『調査季報vol.178』.
 

人材開発部門

1. 職種別 人材開発ワーキング

 ご案内のとおり、『医師』『看護師』『事務職』の3職種のワーキング(以下、WG)を設置し、病院長会から推薦いただいた担当院長にもご参画いただき、人材開発の土台となるような議論がスタートしました。
 既に医師WGが8月2日に、事務職WGが7月25日に開催され、看護職WGについては 8月30日に予定されています。WGでは、次世代の幹部(指導者)の育成が重要であり、そのためには「求められる資質」を明らかにすることや、済生会の強みを生かした「人事交流」で幅広い経験を積ませることの重要性等について、活発な議論が交わされました。

ワーキングメンバーのご紹介(敬称略 50音順)

<医師> <看護> <事務>
青﨑 眞一郎
(川内病院 院長)
高木 誠
(中央病院 院長)
西田 保二
(前橋病院 院長)
山本 和秀
(岡山済生会総合病院 院長) 山森 秀夫
(習志野病院 院長)
吉田 俊明
(新潟第二病院 院長)
池田 惠津子
(吹田病院 副院長(兼)看護部長)
伊藤 秀一
(有田病院 院長)
米須 久美
(野江病院 看護部長)
鈴木 典子
(常陸大宮済生会病院 看護部長)
髙橋 千晶
(山形済生病院 看護部長)
名古屋 恵子
(川口総合病院 看護部長)
藤原 佐和子
(神奈川県病院 看護部長)
宮岡 弘明
(松山病院 院長)
黒川 正夫
(吹田病院 院長)
登谷 大修
(福井県済生会病院 院長)
中野 幸生
(松山老人保健施設にぎたつ苑事務長)
本多 一雅
(福岡県済生会 事務局長)
宮川 栄助
(熊本病院 副院長(兼)事務長)
宮部 剛実
(吹田病院 事務長)
吉田 英康
(特別養護老人ホームめずら荘 所長)
<医師> 青﨑 眞一郎
(川内病院 院長)
高木 誠
(中央病院 院長)
西田 保二
(前橋病院 院長)
山本 和秀
(岡山済生会総合病院 院長) 山森 秀夫
(習志野病院 院長)
吉田 俊明
(新潟第二病院 院長)
<看護> 池田 惠津子
(吹田病院 副院長(兼)看護部長)
伊藤 秀一
(有田病院 院長)
米須 久美
(野江病院 看護部長)
鈴木 典子
(常陸大宮済生会病院 看護部長)
髙橋 千晶
(山形済生病院 看護部長)
名古屋 恵子
(川口総合病院 看護部長)
藤原 佐和子
(神奈川県病院 看護部長)
宮岡 弘明
(松山病院 院長)
<事務> 黒川 正夫
(吹田病院 院長)
登谷 大修
(福井県済生会病院 院長)
中野 幸生
(松山老人保健施設にぎたつ苑事務長)
本多 一雅
(福岡県済生会 事務局長)
宮川 栄助
(熊本病院 副院長(兼)事務長)
宮部 剛実
(吹田病院 事務長)
吉田 英康
(特別養護老人ホームめずら荘 所長)

2. 研修の報告

【アドバンス・マネジメント研修Ⅳ】

 7月25日(火)~7月27日(木)、8月1日(火)~8月3日(木)の2回に分け、それぞれ3日間、看護師を対象としたマネジメント研修が開催されました。
 看護部長に推薦されたクリニカルラダー・レベルⅢ以上の中堅看護師及び副看護師長が対象であり、「次世代の看護管理者としての役割を担う中堅看護師の役割を明らかにし、輝いて看護ができる」ことを目的としています。

済生会総研から

 済生会総研Newsの3号を出すことができました。バックナンバーにつきましては、済生会総研のサイトに掲載しておりますので、そちらをご参照ください(http://soken.saiseikai.or.jp/)。
 これからも済生会総研で取り組んでいる研究や活動について、この済生会総研Newsとサイトを通じて、情報を発信していきたいと思います。

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