済生会総研News Vol.02

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済生会総研の視点・論点 済生会総研 所長 炭谷 茂
第1回 ~超高齢社会における諸問題~

 2007年、日本は、世界の先陣を切って超高齢社会に入った。総人口に占める65歳以上の割合が21%を超えた社会を超高齢社会というが、2016年9月では27.3%になっている。超高齢社会の他の国は、イタリア、ギリシャ、ドイツであるが、21~22%であるから(2015年)、日本は、突出して高い。
 超高齢社会は、人類が初めて経験していることで、経済、社会、文化という大きな分野を始め、医療、福祉、介護という済生会の業務に多大な影響を与える。
 韓国の政治家や研究者などと話す機会がある。韓国でも早晩日本と同様な超高齢社会を迎えると予想されているが、日本がいかに超高齢社会で発生する諸課題を解決していくのか強い関心を持っている。
 政府は、「2025年問題」として団塊の世代の全員が75歳以上になる2025年を目標にして政策の構築を進めているが、超高齢社会の大半の課題は、すでに現実化している。困難に直面している人が多く、早急な検討と対策の構築が迫られている。
 済生会総研でもこれらは最も優先される研究テーマである。今後効果的効率的な方策を導入した病院や福祉施設だけが住民のニーズの応え、発展していくことができる。これに失敗すれば、医療界や福祉界から淘汰されかねない。
 6月から内閣府で「高齢社会対策の在り方検討会」(座長・清家篤(当会評議員))が開催された。高齢社会対策基本法に基づき策定された高齢社会対策大綱の改定を行うためのものである。
 先ごろの検討会では事務局から見込まれる課題例として一人暮らしの高齢者の増加、地域間格差、イノベーションへの順応格差、長寿化に備える資産と健康の確保を挙げている。この中で特に重要なことは、医療と介護の確保、経済能力の2点だろう。済生会は、特に前者に密接な関係を有している。
 清家座長は、「職業寿命と資産寿命をいかに延ばしていくか。その大前提として健康寿命を延ばしていくことが大切である」と発言されているのは、正しい方向である。
 かねて私は、生物学的寿命、健康寿命、社会的寿命(社会参加・活動する能力)、労働寿命の4つの寿命を延ばすとともに、4者の間隔が短縮されることが望ましいと考えている。この方策について済生会総研で研究し、全国の済生会の病院・施設で実行していきたいものである。

研究部門

1. 研究の課題

済生会総研にて取り組んでいる研究課題は以下の通りです。
(1)DPC
 ①「DPCデータの利活用のための分析手法の普及」
 ②「済生会の病院のDPC機能評価係数Ⅱの現状分析と経営の影響」

(2)なでしこプラン
 ①「なでしこプランの展開と課題 ―地域の特性に応じた各地の取り組みから―」
 ②「生活困窮者の就労支援における現状と課題 ―刑余者支援に関する済生会モデルの構築と展開―」

(3)医療と福祉の連携(地域包括ケア)
 ①「済生会独自の地域包括ケアモデルの確立に向けて ―地域での暮らしを支えるためのまちづくり―」
 ②「済生会の医療福祉センターが地域包括ケアシステムに与える影響」

(4)その他
 「済生会DCATの取り組みにおける現状と課題 ―組織化と派遣職員へのサポート―」

2. 研究活動報告

今回は、上記(2)②「生活困窮者の就労支援における現状と課題 ―刑余者支援に関する済生会モデルの構築と展開―」の研究について報告いたします(上席研究員 原田奈津子)。

Ⅰ.研究の目的

(1)研究の背景と必要性
 この研究では、「生活困窮者の就労支援」というテーマを長期にわたって取り上げ、検討していく。この生活困窮者の就労については、刑余者、がん患者、ひきこもりなどさまざまな背景のもと社会への適応にあたって支援が必要な状態にあることから、専門職間の連携や地域の受け入れをいかに構築するかが問われている。さらに、どのように社会での居場所をつくるのか、また、継続的な支援ができるのか検討が必要となっている。

(2)研究の目的と研究によって期待される成果
 今年度の研究の目的は、刑余者を対象として取り上げ、刑余者の社会復帰を支援する上での構成要素を明らかにすることとする。具体的には、済生会でこれまで取り組まれてきた支援について精査し、済生会モデルの構築とその展開について検討を行う。済生会モデルが確立することで、済生会内外での取り組みへの波及効果が期待できる。

Ⅱ.研究内容

(1)研究の対象
 刑余者支援にかかわる人々や刑余者自身を対象として、就労支援の現状と課題を把握し、さらには支援としてのプログラム展開を構築する。また、必要に応じて、法務省などの関連機関とも連携を行う。具体的なフィールドとして、本研究にかかわる済生会の現場からの研究員として迎えられた篠原上席客員研究員がこれまでかかわってきた先駆的な取り組みを行っている山口地域ケアセンターでの実践を中心に研究をすすめていくこととする。

(2)研究の方法とスケジュール
 本研究は主に調査による実証研究であり、研究スケジュールは2年間を予定している(平成29年4 月~平成31 年3 月)。初年度は、山口地域ケアセンターの取り組みを軸にし、全国済生会刑余者支援推進協議会や法務省関係との連携、刑余者支援を行っている済生会職員や刑余者へ調査(質問紙調査やインタビュー調査等)を行うことを予定している。
 研究における代表は、済生会総研の原田が担い、済生会現場からの研究員として、篠原上席客員研究員に加え、今後、客員研究員等に参画を要請していく。

Ⅱ.研究の進捗状況

(1)全国済生会刑余者等支援推進協議会との連携
 6月6日に行われた全国済生会刑余者等支援推進協議会に参加し、その後、府中刑務所の視察に同行した。これまでの協議会の取り組みについての情報を得ると共に、府中刑務所では、受刑者の全体的な傾向、出所後の就労における課題などについて説明を受けた。さらに刑務所では質疑応答や矯正就労支援情報センター室(コレワーク)の職員と意見交換を行った。済生会総研の研究の課題として刑余者支援を取り上げていることを説明し、今後、連携をしていくことが確認された。

(2)山口地域ケアセンター訪問と研究の打ち合わせ
 山口地域ケアセンター訪問、山口刑務所訪問(6 月28 日~30 日)を行った。山口刑務所では、山口地域ケアセンターが介護職員初任者研修の実施に協力しており、講師の派遣を行っているとのことであった。講師として炭谷理事長も講義を行っており、受講者(受刑者)と一緒に炭谷理事長の講義を聴講する機会を得た。その後、山口刑務所と今後の連携について確認をした。
 山口地域ケアセンター訪問では、これまでの取り組みについて情報提供を受け、今後の研究のスケジュール等について、篠原上席客員研究員と打ち合わせを行った。山口刑務所における介護職員初任者研修等の受講者や講師(山口地域ケアセンター職員)への調査を行うことを検討した。
 今後は、先行研究等のまとめと調査票の作成、調査の実施にあたっての各機関との調整を図ることが確認された。現在、調査票の作成を中心に研究を進めている。

3. その他の活動

 済生会各地の取り組みについて、研究に反映できるよう参加や訪問を行っています。

 ①川口総合病院での生活困窮者支援協議会(7月4日)への参加
 ②特別養護老人ホーム ケアハウス めずら荘 他訪問(7月6・7日)
 ③在宅サービス協議会(7月15日)参加

 

人材開発部門

1. 研修の報告

【副看護部長研修】

 61病院67人の副看護部長が参加し、7月5日~7日に開催されました。
 済生会という組織における副看護部長としての役割と看護管理のあり方について学び、実践に結び付けることを目的としており、以下3点を目標としています。

1.変化する社会のニーズに対応できる看護管理者に必要な知識・技術・態度を習得し実践する
2.済生会看護の標準化とレベルアップを図るため、ネットワークを活用し、実践につなげる
3.済生会の果たす使命・役割について再考し実践する

【福祉施設リーダー研修】

 老健、特養、保育園、障害児施設等から、職種を問わず24人が参加し、7月3日~4日に開催されました。受講者を少人数にすることで、より効果的な研修にすることを狙っています。
 福祉施設等で働く職員が、本会の創設理念や福祉事業の課題・使命等を学ぶことで、済生会人としての自覚を高め、福祉施設のリーダーとしての資質の向上、及びリーダー相互間の連携を図ることにより、本会業務の発展に資することを目的としています。今回同様の研修は9月4、5日にも開催予定です。

【全国済生会臨床研修指導医のためのワークショップ】

 本会医師32 名が参加し、6月24日~25日にクロスウェーブ梅田(担当:松山病院)で開催されました。修了者には厚生労働省医政局長名の修了証書が授与されます。
 本会では平成18年2月に第1回のワークショップを開催し、平成29年6月現在の修了者数は1,139人に上ります。
 研修は目標・方略・評価といった「カリキュラムプランニング」の他、コーチングやフィードバック技法など臨床研修指導医として必要な技能・態度を習得することを目的としています。

済生会総研から

 前号の発行後、「Newsをみました」と声もかけていただく機会も増え、皆様に済生会総研の取り組みを知っていただけることの重要性を感じています。
 済生会総研は現場と連携するのが大きな特徴であり、強みです。ぜひさまざまな形で参画いただければと思います。

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