済生会総研News Vol.49

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済生会総研の視点・論点 済生会総研 所長 炭谷 茂
第48回 医療・福祉の影響要素を把握する

 6月4日、厚労省の人口動態統計(概数)が公表されたが、予想されていたとは言え、衝撃的な内容だった。2020年の出生数は、1899年の統計開始以来最少の840,832人だった。婚姻件数は、525,490組で戦後最少だった。
 今年に入っても妊娠届け状況等から推測すると、さらに今年の出生数が、低下することは、確実とみられる。新型コロナウイルスによって人との出会いが減少しているので、これからも婚姻数は減少し、出生数の減少は歯止めが掛からず、少子超高齢化と人口減少が加速していく。
 人類が経験したことのない少子超高齢化社会と人口減少の長期的趨勢は、政治、経済、社会、文化、生活等あらゆる分野を劇的に変化させる。投票率が高い高齢の有権者が相対的に増加するに伴い、政治は、高齢者の声の重視に傾斜する。労働人口の急激な減少は、経済活動が低迷をもたらし、省力化や外国人労働力の活用を促す。効率性重視や均一的な社会から生活の質や個別性重視の社会へ転換する。
 医療や福祉も同様で、根本的な変化から逃れられない。地域のニーズに応じた地域医療構想の推進や個別性が強い高齢者のニーズに合致した地域包括ケアの整備を急がなければならない。高齢者が安心して過ごせる居住体制も著しく遅れている。長い高齢期の暮らし方は、個人の問題に止まらず、社会全体で解決を要する。
 一方、地球温暖化の進行等地球環境の激変も医療・福祉への影響は、大きい。地球温暖化の進行によって台風や集中豪雨は、強大化し、被害は、甚大になっていく。災害は、常在化するので、医療や福祉の提供者側は、常時備えなければならない。また、熱中症やデング熱などの疾病は、増加していくので、予防対策や医療体制が必要である。
 地球温暖化防止対策は、国際的な取り組みが始まっている。対策は、国や企業だけでなくあらゆる組織が参加しなければならない。医療機関や福祉施設も同様であるが、現在はあまり積極的な態度が見られない。しかし、省エネは、サービス水準を低下させないで実施することができるし、経営に寄与できる。
 このように医療や福祉サービスに影響を与える要素は、多岐にわたる。他にも国際紛争、水・食糧・エネルギー資源の不足、所得格差の拡大、情報革新、地域社会の変化などたくさんある。
 医療・福祉の研究に当たっては、これらの要素を注意深く把握しなければならない。専門分野に閉じこもっていては、現実の世界から遊離し、実用性のない研究に終わってしまう。

研究部門 済生会総研 上席研究員 原田奈津子

認定NPO多摩草むらの会・社会福祉法人草むらへの訪問

 緊急事態宣言が明けた6月22日、認定NPO法人多摩草むらの会、社会福祉法人草むらを訪問する機会を得た。今回、本部事務局総合戦略課と広報室と一緒に取材を行った。ソーシャルファームの中でも先駆的な取り組みを行っている組織として、一度は自分の目で実際にみてみたいと思っていたので、貴重な体験となった。
 ソーシャルファームのファームとは、農場(farm)でなく、企業(firm)を指しており、就労にあたって困難を抱える方も必要なサポートを受け、他の職員と共に働く、一般企業と同じく経済活動を行う場であるとされている。今回の訪問先では、精神障害の方が多いようであった。具体的な作業として、農作業、パソコンを用いたデザイン作成、弁当や和菓子の製造、レストランでの接客・調理など多岐に渡っており、個々の適性をいかした取り組みを行っているとのことであった。
 いきいきとした表情や誇りをもって作業に取り組む姿から、単なる居場所でなく、就労の場であることが伝わった。仕事をするということや役割があるということの意義や意味を改めて感じることができた。

デザインデザイン

和菓子和菓子

農作物の販売農作物の販売

シイタケの栽培シイタケの栽培

 高品質のシイタケ栽培や手作りの和菓子など「買いたくなるもの」をつくることを実現しており、そこが素晴らしいと思った。また、レストランも常連の方がいらっしゃるようでリピーターがいることの強みを感じた。「おいしいから買う・行く」を意識した事業展開をしていることが大きな特徴であった。
 また、コロナ禍で、精神障害の方々の生きづらさへのサポートがさらに重要になってきており、ソーシャルインクルージョン、つまり、すべての人びとが共に支えあう社会の実現が求められているということであった。
 多様性を尊重し、生きづらさの根幹にある課題をいかに解決していくのか、私自身も研究を通して検討していきたいと改めて考える機会となった。

*詳細については、機関誌「済生」7月号、さらに、済生会のホームページの「知る・見つける・支えるソーシャルインクルージョン(シンク!)」にて来月掲載予定だそうです。そちらもぜひご覧ください。

人材開発部門

訪問看護ステーション管理者研修

 令和3年度訪問看護ステーション管理者研修が5月20日~21日の2日間、本部で開催された。今年度は感染防止対策のため、本部での集合研修開催を中止し、全日程をZOOMによるオンラインで開催された。全国から51名(うち新任管理者14名)が参加した。
 1日目は炭谷茂理事長の基調講演の後、日本訪問看護財団常務理事・佐藤美穂子氏の講義「訪問看護制度をめぐる動向(令和3年度介護報酬改定を主として)」が行われ、新型コロナ禍における訪問看護制度の動向、令和3年度介護報酬改定の主な事項等について解説があった。


 2日目の午前中は、全国済生会訪問看護ステーションの6ブロックの代表として6名の管理者から各事業所の取り組みや今後の課題を踏まえて、活動報告・事例発表が行われた。
 午後からは、12グループに分かれ「新型コロナウイルス感染症対策に関すること」と「介護報酬改定の説明や各ブロックからの活動報告で解決できなかったこと」の2つのテーマでグループワークを行った。各事業所での悩み、活動内容、今後の課題等について有意義な意見交換と情報共有の場となった。

―編集後記―

 今回、ひさびさに家と職場以外の場所へ行くことができました。公園の清掃作業を見せていただいたのですが、丁寧な作業風景と共に、手入れの行き届いた緑の風景に圧倒されました。緑の森林浴効果のせいか、この日は熟睡できました。体調を整えて梅雨時期を乗り越えたいと思います。

(Harada)

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