済生会保健・医療・福祉総合研究所
済生会保健・医療・福祉総合研究所

次の100年へ、先人の想いをつなぐ
一人ひとりの幸せを守るために

済生会は「社会の最終ライン」を守るという気概を持って、3つの基本的使命(生活困窮者への支援、地域医療への貢献、総合的な医療と福祉サービスの提供)を遂行していきます。

済生会は、明治天皇による「済生勅語」によって設立され、「施薬救療の精神」に基づく生活困窮者の救済を使命としています。生活困窮者を救済するための社会保障制度が整う今日においても、現実的には、救済しきれない新たな複雑化した問題を抱える生活困窮者は存在しており、更にはその存在自体が埋もれている生活困窮者も存在しています。
そのような環境下においてこそ、本会は3つの基本的使命を、時代の変化を踏まえながら的確に果たし続けていく必要があります。しかしながら使命を果たすためには、経営基盤を安定させる必要があり、両者を両立させるための研究と両者の両立を支える人材の確保・育成が急務となっているのです。

済生会総研News Vol.05

済生会総研の視点・論点 済生会総研 所長 炭谷 茂
第4回 ~福祉国家の基本構造~

 社会には誰も疑わない観念が存在する。疑いを持っても指摘することが社会的に許されない空気がある。しかし、この観念は、本来は時代とともに変化し、新しい観念に置換する性格のはずである。

 「リサイクルに費用がかかる」という観念が、今や社会の中に定着した。確かに地球資源は、限られている。自動車や家電製品の廃棄者は、リサイクル料金を支払う。かつてはこれらの処分は、無料ないしは買い取ってくれた。
 しかし、「リサイクルに費用がかかる」という国民の観念の定着に乗っかり、リサイクル費用の徴収範囲の拡大の動きが発生する。
 私は、公務員の最後は、環境行政の責任者だった。環境重視の立場の人は、有料化の拡大に賛成だが、私は、事例ごとに慎重に対処すべきという立場だった。リサイクルは経済合理性を考慮し、無用な負担を国民に求めるべきでない。現在古紙、地金のように有価で取引されるモノは、市場に任せるべきで、公的なリサイクルの制度化は不合理だ。
 自動車のバッテリーは、価値の高い鉛の塊で、現在有価で取引される。しかし、不法投棄され、有害物質が漏出するので、有料のリサイクル制度の導入が議論されたが、私は、国民に無用な負担をかけること、非効率的な官庁や企業の「天下り」組織を作ることなどから反対した。

 「高福祉には高負担は当然である」という観念も定着している。異議を唱えると、将来世代に負担を押し付ける無責任な議論だと批判される。
 現代の福祉国家は、1942年のべヴァリッジ報告が出発だった。福祉国家は、戦後の高い経済成長と人口増加に支えられ、先進国で成熟した。しかし、これらの基礎条件は崩壊してしまった。
 高齢者等受益者が増加する一方、負担者の負担能力が低下している。負担は、限界に達しつつある。そこで費用を抑えて、福祉を増大する道を探らなければならない。こんなことはできるのか?
 実はベバリッジ報告は、経済の発展につなげ、負担を抑える方法を示唆している。ベバリッジは、ケインズの影響を強く受けているが、就労の促進、住民の福祉活動、効率的な福祉運営を重視している。
 この見地から日本最大の医療と福祉サービスを実施する済生会が行えることは、たくさんある。本研究所でこの分野を研究し、本会が実行することは、国民の負担を増加することなく、福祉国家の再生に貢献できる。

研究部門 総研近況済生会総研 所長代理 松原 了

 設立以来7ヶ月を経ました。これまで支部長会議、三役会議、ブロック会議など機会を捉えて報告をしてきましたが、本会内外からの総研に対する期待は想像以上に大きいと感じています。

 研究所の日頃の活動を紹介します。研究の常勤スタッフは、3名です。研究部門長の山口先生は、東京女子医大の医学部公衆衛生学の教授であり、週に一回木曜日に来会いただき、3人のスタッフと所長代理である私との総勢5名が定例打合せをしています。必要に応じて本部事務局も参加し、諸規程の作成、研究推進に係る諸事務処理や研究テーマや目的、方法などについて話し合っています。研究所庶務は専用スタッフを置いておらず本部事務局兼務です。研究所が発足したばかり故の煩瑣な事務処理も沢山あります。

 上席研究員の持田は横浜市東部病院で特に医事関係の経験が豊富であり、DPC分析を中心に経営管理の研究を進めており、最近漸くデータ分析結果の一部が出たところですが、様々な方向への発展の可能性が期待されます。具体的には入院時薬剤管理料などの請求項目について請求割合が69施設において極めて大きなバラツキがあることが確認されました。バラツキの原因はどのような事情によるものかを、本会病院からの客員研究員も交えて今後議論することになります。

 もう1つは29年度機能評価係数IIによる収入について、前年度と比較したところ、7割強の病院の係数が減少する見込みでした。係数減の病院では複雑性、効率性など8つの要素のどこを改善すれば機能評価係数IIの増に繋がるかについて、本会病院事務からの客員研究員を交えて分析する予定です。DPCに関する研究について、研究テーマや課題について、本会病院から、興味深い提案を積極的に寄せていただきたいと思っています。

 また、産業医大松田教授の教室から客員研究員、非常勤で2名の応援をいただくことになりました。これまで総研顧問の松田教授の指導の下行ってきた医療福祉の質に関する研究を、電子カルテやレセプト、DPCデータを駆使して一層進化させることが期待できます。

 福祉部門では長崎国際大学准教授を経て着任した原田上席研究員がおりますが、済生会での日も浅いため、顔を知っていただく事と研究のための人脈作りに務めるようにしています。研究心のある本会施設の皆様から声がけされるよう、地域包括ケアをはじめ、済生会DCATやなでしこプラン(刑余者等の研究)に繋がる地域に出向いて、コミュニケーションを深め、研究打合せを進めているところです。地域包括ケアのテーマは幅広く茫漠とした感があるため、広がった人脈を活用して各地での地域包括の取り組みをどのように研究成果に収束させていくかが課題です。

 研究員に温かい声援を送っていただきたく存じます。

 
人材開発部門 研修の報告 研修の報告
【臨床研修管理担当者研修会】

 10月2日、臨床研修指導医や事務担当者62名が参加した臨床研修管理担当者研修会が済生会本部で開催されました。

 この日は、済生会病院間における「初期研修医の交流プログラムの検討」と済生会熊本病院の「包括診療医」の取り組みについて事例発表と参加者同士によるディスカッションが行われました。

 初期研修医の交流プログラムとは、2年間の初期臨床研修の中で一定期間、他の済生会病院で研修医が地域医療や救急医療の研修を行うものです。事例発表では自院では経験できない症例を経験できてよかったという研修医からの感想があった一方で、限られた期間の中でより良い研修を経験してもらうためには、送り出す病院と受け入れる病院の双方で研修医に対してフィードバックして研修医を育てることが重要であるという意見もありました。

 「包括診療医」の取り組みでは、包括診療医が主治医や病棟専属の薬剤師・栄養士と連携して業務することで、入院患者さんの手術後の体調管理や急変時の対応をより迅速に行うことができるようになり、患者満足度が向上したとの発表がありました。また、包括診療医が中心となり安全管理に取り組むことや、医師・看護師・事務スタッフ等で病院運営上の課題などを話し合うことで、職員の知識や技術の向上に繋がり、職員から高い評価を得ていることも報告されました。

済生会総研から

 今回の済生会総研Newsでは、炭谷所長の連載だけでなく、松原所長代理にも執筆していただき原稿を掲載することができました。原稿にも記されていた"毎週木曜の研究ミーティング"では、研究活動の進捗状況を研究員が報告し、さらによりよい研究になるようディスカッションを重ねています。また、研究環境を整えるための話し合いもなされています。

 この積み重ねを経て、研究の成果を現場にフィードバックできるよう、また済生会の各施設の取り組みを理論化・普遍化して済生会内・外に発信できるように取り組んでいきたいと考えております。目下のところ、来年2月に行われる済生会学会での報告に向けて、これまでの研究成果とこれから期待できる研究成果について検討しているところです。

済生会総研News Vol.04

済生会総研News vol.04全文はこちらから

済生会総研の視点・論点 済生会総研 所長 炭谷 茂
第3回 ~グローバル化への対応~

  最近日本のどこでも外国人観光客が多くなった。9月11日、大阪府済生会支部が実施した釜ヶ崎健診を視察したとき、釜ヶ崎でバックパッカーの外国人の若者を見た。安いホテル料金が魅力なのだ。
 平成28年の訪日客数は、2,400万人になった。10年前の18年が700万人だから、3倍以上の増加である。政府は、オリンピック・パラリンピック開催の平成32年には4,000万人を目標にしている。
 私は、平成19年に休暇村協会理事長だった時、外国人客を取り込むため、手始めにソウルに事務所を開設した。これには宿泊施設の支配人から異論が出された。
 当時、中小のホテル業界は、外国人客をターゲットにしなかったので、費用対効果がない、アジアの国の宿泊者とのトラブルが絶えず、日本人客が逃げてしまうという意見だった。
 私は、日本でグローバル化が進んでいくので、積極的に外国人観光客を顧客にしないと、早晩ホテル業は、壁にぶつかると判断した。参考にしたのは、ヨーロッパの状況で、田舎の小さなホテルでも外国人観光客が宿泊している。

 「アメリカファースト」をスローガンにするトランプ米大統領は、国際協調よりも自国利益を最優先にする政策に傾斜する。移民排除政策が目玉公約である。これは、自由貿易によって成長してきた世界の歴史に逆行する。アメリカ経済も海外からの移民によって支えられてきた。
 グローバル化が進む歴史の歯車を止めることは、誰にもできない。グローバル化の推進こそ人類の平和と福祉にとって望ましい。相互の理解・交流が深まれば、戦争は避けられる。技術移転によって途上国の経済成長が促進される。
 日本は、地理的歴史的事情、国民性等が原因してグローバル化では遅れを取った。しかし、最近大きく変化し始めた。
 医療分野でもグローバル化に対応していかなければならない。このために研究しなければならないテーマがたくさんある。
 日本における外国人医療費の見通しは? 外国人が病院選択に役立つ情報の発信方法は? 診療に当たってのコミュニケーションの確保や宗教や文化の差異の解決策は? 医療保険によってカバーされない患者が多いが、この場合の対処方法は? 等々
 これらの問題を研究し、解決方法を開発していくことが緊急の課題である。

研究部門 研究活動報告 「済生会の病院のDPC 機能評価係数Ⅱの現状とその課題」
上席研究員 持田勇治
I. はじめに

 済生会総研中期事業計画で、病院経営改善につなげることを目的として、DPC等のビッグデータを活用した病院経営に資する分析等に関する研究である「DPC機能評価係数Ⅱの現状とその課題」を進めている。

II. 研究の目的

(1)研究の背景
 DPC請求に関する係数は、病院群ごとに決定される「基礎係数」、施設基準により決定される「DPC機能評価係数Ⅰ」等がある。今回は、「DPC機能評価係数Ⅱ」についての研究を行う。DPC機能評価係数Ⅱは、公示前々年10月から前年9月までの診療実績により、厚生労働省が決定し公示されるが、厚生労働省からは機能評価係数Ⅱの詳細な決定プロセスを示されいない。したがって、各病院では独自の理解・分析のもとで様々な対応を行っている背景がある。

 

(2)研究の目的と研究によって期待される成果
 済生会本部経営管理システムで収集している膨大なDPCデータを使用して、DPC機能評価係数Ⅱの決定プロセスを深く解明することを目的とする。最終的には、解明された決定プロセスを済生会病院全体で情報共有して医療機能改善に向けた対策を可能とするとともに、病院経営改善につなげる。また、済生会内でワークショップを開催してDPC機能評価係数Ⅱ向上に向けた方策を共有したいと考えている。

III. 研究の内容

(1)研究の対象
 経営管理システムに集められたデータ、機能評価係数Ⅱの公表データ等を使用する。

(2)研究の方法
 済生会病院のDPC参加病院の診療データからDPC機能評価係数Ⅱの指数を算出する。算出された指数と実際に公示された機能評価係数Ⅱとの比較、検証を重ねて、さらなる指数算出の精度向上を目指す。DPC機能機能評価係数Ⅱでは、病院機能の評価されている点についての理解を深めることにより、各病院で具体的な対応について考える契機としたい。

IV. 研究の進捗状況

 現在最初の研究活動として、済生会病院の平成29年度DPC機能評価係数Ⅱ(8項目)を前年度係数との変動状況を把握した。病院ごとの診断群分類包括請求額(DPC係数のかかる金額)の情報を検討要素として加え、平成29年度機能評価係数Ⅱ公示による済生会全体の経済的な影響を算出した。

V. 調査結果

 平成28年度から平成29年度は、診療報酬改定がなかったために、DPC機能評価係数Ⅱに付与される財源は同額になる。しかし、今回の調査では、済生会病院においてのDPC機能評価係数Ⅱ全体の変更による影響は、前年比較でマイナス0.049%であった。
最も変化の大きかった係数は「効率性係数」はマイナス0.023%、次いで「後発医薬品係数」は、マイナス0.020%であった。

VI. 考察

 「効率性係数」は、係数決定プロセスを理解して対応を考える事により、係数を向上させられると考えられ、今後の重要な研究課題となる。「後発医薬品係数」は、昨年度係数算出調査期間で上限に達している済生会病院は22病院で、今年度は36病院と増えている。しかし、全国のDPC病院においての係数算出調査期間で後発医薬品使用割合が増えて、上限に達する病院が増加したことにより、平成29年度の後発医薬品係数の上限が引き下げられたための影響と考えられる。
また、DPC総請求額における診断群分類包括請求額(DPC係数のかかる金額)の割合は、平均30.4%(最大41.1%・最小21.9%)であり、DPC総請求額の低い病院は、この割合が高い傾向が見受けられるので、それらの病院はDPC機能評価係数Ⅱを改善に向けて積極的に活動を行う必要があると考える。

VII. まとめ

 全体平成29年度DPC機能評価係数Ⅱの公示により済生会病院において、マイナス0.049%の減収となっていることからも、機能評価係数Ⅱの決定プロセスを各病院で理解し対応することは有意義であると考える。ついては、今後研究を進める中で済生会の54病院のビッグデータを使用して、DPC機能評価係数Ⅱ決定プロセスの理解を深め、各病院の課題を検討していきたいと考える。

 
人材開発部門 1. 研修の報告 研修の報告
【認知症支援ナース育成研修】

 9月12~13日、リーダーとして活躍できる中堅看護師(クリニカルラダー・レベルⅢ程度)81名を対象に、認知症看護を理解し、認知症看護の推進役となる「認知症支援ナース」を育成するための研修が行われました。
 今年度は2回の開催を予定しており、次回は10月12~13日に開催されます。

  ≪研修目標≫
1.急性期病院における認知症ケアの現状と課題を理解する
2.認知症の病態と診断、治療について理解する
3.認知症の人における倫理的配慮と意思決定支援について学び、自施設にて尊厳なるケアの提供が実現できる
4.認知症の日常生活におけるニーズを理解し、他職種協働によるサポートの仕組みを理解する
5.認知症の人と家族が住み慣れた地域で暮らし続けられるように支える地域の仕組みを理解する
6.知識を統合し、認知症支援ナースとして自施設でのアクションプランを考え、実践できる
【福祉施設リーダー研修】 福祉施設リーダー研修

  7月に続き、第2回となる福祉施設リーダー研修が9月4~5日に開催されました。老健、特養、保育園、障害児施設等から、職種を問わず23人が参加しました。
 グループディスカッションでは「自分たちが目指す済生会グループの施設のあり方」をテーマに、現状の問題点について活発に意見を出し合い、さらに「主体性の発揮―人間力を高める―」について討議しました。ある言動や価値観を別の視点から捉え直すことができれば前向きになることができ、職場の人間関係をはじめ、全てを良い方向へ向かわせてくれることを学びました。

済生会総研から

 これまで済生会総研Newsでは、いくつかの研究活動の経過報告をさせていただきました。今後の研究活動は、スピードアップし、内容も充実させていきたいと思っています。
 済生会総研の活動報告についてのご意見等について、是非とも今後の活動の参考にさせていただきたいと思います。研究部門の連絡先にいただければ幸いです。よろしくお願いします。

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